モモの読書感想文033~『きらきらひかる』江國香織
モモです。
すっかり初夏の気候になってきましたね。
今日はお休みをとって、ひとりお家でゆっくり読書をしていました。
用事もないのにお休みをとるのはぜいたくで好きです。昼間に入るお風呂みたいな、ちょっと特別な感じです。こういう日にぴったりなのはやっぱり、江國香織さんの作品。
前回の感想文はこちら。
今回の読書感想文は・・・
『きらきらひかる』著:江國香織
今回の課題図書はこちらです。
私たちは十日前に結婚した。しかし、私たちの結婚について説明するのは、おそろしくやっかいである――。笑子はアル中、睦月はホモで恋人あり。そんな二人はすべてを許しあって結婚した、はずだったのだが……。
チェストの引き出しには、2通の診断書。
ひとつは睦月がエイズではないことを証明するもの、もうひとつは笑子の精神病がそれほどひどくないことを証明するもの。
お互い承知の上でのこの結婚は、まるでおままごとだ。ふたりは文字通り「抱き合う」ことしかできず、家族が増えることもない。
睦月には、紺くんという付き合いの長い恋人がいる。
睦月は笑子にも恋人が必要だと主張するが、笑子はそんなもの必要ないと言います。
紺くんともすっかり仲良くなり、今日は紺くんの家に泊まりに行ったら? などと言う。
登場人物がみんなちょっとおかしいんですよ。(笑)
これが江國ワールドの自然体なんだけど。
「このまま」でいたい
両親・義両親からの子作りのプレッシャーや、元恋人の登場で心を乱される笑子。
このままでいたいのに、と泣く笑子に、変わらずにはいられないんだよ、と睦月は言います。
睦月はとてもやさしくて、でもそのやさしさが、笑子を追い詰める。
人は、恋人に期待をせずにはいられないと思います。もっとこうしてほしいのに、ああしてくれると思ったのに。そういう期待と期待外れを繰り返して、ぶつかって。でも睦月とはそれができない。
笑子はきっと、睦月が底抜けにやさしいのは自分を好きではないからだと、自分になにも望んでいないからだと、そう感じているから苦しい。
ぶつかったり、けんかしたり、傷つけあったりできる関係って、実は貴重だなぁと思います。
自分の人間関係のなかで、けんかできる相手っていったいどれだけいるだろう?
なぜ二人は結婚したのか?
この小説最大の謎は、なぜ二人が結婚したのか? ということです。
ホモとアル中の子どもを心配した両親に無理やりお見合いをさせられた二人。
「憤慨なさるでしょうけれど、僕は結婚するつもりなんてないんです」
笑子はしばらく僕の顔をみて、それからきっぱりと言った。
「あら、私もです」
それから後の顛末は書かれていません。
こんなやり取りのあとに、どうして結婚することになったのか。
あなたはどう考えますか?
私は、このとき笑子は嘘をついたんだと思います。
本当は一目で睦月を気に入って、結婚したいと感じたのだと思う。
この小説の中で笑子は二度、「嘘をつくことなんて何とも思っていない」と言います。それはこの
「あら、私もです」
という台詞のためではないかと、思うのです。
お互いの愛情だけで成り立っている生活
作者はあとがきで、「ごく基本的な恋愛小説を書こうと思いました」と言っています。
ごく基本的な!? ホモとアル中夫婦のどこが!?
と思いますが、よく考えてみるとそれはただの舞台装置であって、やっぱりこの小説は純粋な愛の物語なんですよね。
だってこれはお互いの愛情だけで成り立っている生活だから。
睦月と笑子は物語の終盤、お互いの両親と親友をだまして物事を丸く収めます。
これは一見解決のように見えるけれど実はそうではなくて、決定的な孤立です。両親と親友を切り捨てて、睦月と笑子と紺くんの三人の生活を守ろうとしたんです。
危ういですよね。そこには愛情しかない。
すごく基本的な、恋愛小説。たしかにそうなのかもしれません。
江國香織作品、いろいろ。
おすすめ3選
江國作品たくさんありすぎて迷う! という方に。
『神様のボート』
この結末を、あなたはどう解釈しますか?
『真昼なのに昏い部屋』
かわいらしい雰囲気に騙されますが、かなり狂気的な恋愛小説。
『扉のかたちをした闇』
森雪之丞さんとの連作詩集。
『デューク』
短編。教科書にも掲載された傑作です。
どれも素敵な作品ばかり。
年齢とともに解釈が変わるのも、どんな世代の読者にも耐えうるのも、本当にすごい。ただただ尊敬です。
それでは、また。
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