モモの読書感想文035~『カンガルー通信』村上春樹
モモです。
最近読み返しているこの本。
面白い短編作品がたくさん所収されているので、ちょこちょこ感想文を書いていこうと思います。
今日は2作目。
前回の感想文はこちら。
今回の読書感想文は・・・
『カンガルー通信』著:村上春樹
いつもだったらここでまずあらすじを紹介するのですが、この作品については「まずは読んでください」と言いたい。
というのも、読んでいくうちに徐々に状況が明らかになっていく、ちょっとした裏切りがある作品だからです。
物語の冒頭はこうです。
やあ、元気ですか?
今日は休日だったので、朝のうちに近所の動物園にカンガルーを見に行ってきました。
のどかな出だしですね。
「やあ」とか言ってますから、親しい人に当てた手紙かな?
私は、遠距離恋愛をしている恋人に休日の過ごし方を報告をしている微笑ましい男の子の姿をイメージしました。
しかしその後しばらくカンガルーについての記述が続くと、いきなり自己紹介を始めます。
それではまず自己紹介から始めましょう。
僕は二十六歳で、デパートの商品管理課に勤めています。
え、知り合いじゃなかったの?
じゃあ誰に向けた手紙なの?
その後しばらく業務の内容についての記述が続き、どうやら彼の仕事は主に苦情対応だということがわかります。
で、先日あなたが寄せられた苦情について我々は慎重に検討してみたのですが・・・
手紙の相手、お客様だったの!?
これ、苦情に対する返信だったの!?
しかし職業的観点を離れれば--僕は個人的にあなたの苦情に対して--レコードを間違えて買ってしまったという苦情に対して--心から同情しています。これは嘘ではありません。
それって苦情なのかな!? それに同情されてもね…
だからこそ僕はとおりいっぺんの事務通知ではなく、このような、ある意味では親密さをこめたメッセージを、あなたに送っているのです。
なにそれ!?
もうね、これが苦情に対する返信だと知ったうえで冒頭から読み直したくなります。カンガルーのくだり何だったの?って。
続く裏切り
この後も、こちらの想定をくつがえす裏切りが続きます。
「え、そうだったの?」とか、「なにそれ気持ち悪い!」とか思っているうちに意味が分からないまま突然ぷつんと話が終わる。
もし私がこのメッセージを受け取ったら、すぐに警察に通報すると思います。
この作品については、考察したり解釈したりするのは野暮だという気がする。
読んで、驚いて、それで終わり。こういう作品が短編集にひとつあると、アクセントになって面白いです。箸休め的な感じで。
どこかで見たことがある構成
そうそう、この作品から受ける印象、既視感があるな…と思って一生懸命考えて、思い出しました。
ラーメンズのコントにこんな感じの作品があるんです。
ラーメンズのコント『study』
ラーメンズ第14回公演『STUDY』 に収録されている「study」というコント。
なんのセットもない舞台に、裸足の男が二人。
禅問答のようなやりとりを続ける冒頭3分間ののち、この男が発する一言で、観客席から爆笑が起こります。
状況がいっぺんに把握できた瞬間、今までの3分間が頭の中に蘇って思い出し笑いが止まらなくなる。観客席、ずーっとクスクスしてる。
一瞬にしてこの真っ黒な背景に、情景が浮かび上がるように感じるんだよね。
10年前の作品なんだけど、今でも鮮度抜群の面白さ。
DVD出てます。「study」以外のコントもハイセンスで、「面白い」の幅広さに驚きます。
ということで、ちょっと変わった短編作品『カンガルー通信』でした。
それでは、また。
Next bookreport is…