モモの読書感想文043~『スイートリトルライズ』江國香織
モモです。
毎日雨ばかりで気が滅入りますね。
そんなときは江國香織ワールドに癒されたくなります。
今回の読書感想文は・・・
『スイートリトルライズ』著:江國香織
この日常に不満はない、と瑠璃子は思う。淋しさは人間の抱える根元的なもので、自分一人で対処するべきで、誰かに―たとえ夫でも、救ってもらえる類のものではない。瑠璃子と二歳下の夫、総。一緒に眠って、一緒に起きる。どこかにでかけてもまた一緒に帰る家。そこには、甘く小さな嘘がある。夫(妻)だけを愛せたらいいのに―。
いわゆるダブル不倫のお話です。
江國さんの作品って、ほんとうに不倫とか浮気とかが多いですね。
それでいてみんなまったく悪気がないですね。(笑)
今回は、主人公・瑠璃子の気持ちの動きを台詞から読み取っていこうと思います。
前回の感想文はこちら。
家庭の中の恋愛
「このうちには恋が足りないと思うの」
「あなたといると、ときどきとても淋しくなるの」
聡は瑠璃子にきこえないように、胸の内だけでため息をつく。
「ごめん」
とりあえずあやまった。
主人公の瑠璃子は、聡がいつも自室にこもってゲームばかりしていることを、そして2年間セックスレスなことを気にしている。
それが「この家には恋がない」という言葉に表れているのだし、「淋しい」のはそれを具体的に伝えられない、伝えてもどうせ伝わらないというあきらめからくるものなんだと思う。
瑠璃子と聡は全く違う価値観で生きていて、瑠璃子の気持ちはたぶん聡にはわからない世界のものなのだ。
でも聡よ、この瑠璃子のSOSを見逃した罪は大きい。
家庭の中に恋が見いだせなくなったら、外に求めるしかないもの。
瑠璃子の不倫、聡の不倫
その後すぐ、瑠璃子は顧客(瑠璃子はテディベア作家)の恋人である春夫と不倫を始める。
瑠璃子にとって男性というのは、「好きになろうと思えばいつでも好きになれる」ものだからだ。
「大切なのは、日々を一緒に生きるっていうことだと思うの」
「一緒に眠って一緒に起きて、どこかにでかけてもまた同じ場所に帰るっていうこと」
「憶えててね」
聡はここで言葉につまった。何を憶えておけばいいのかわからなかったからだ。
恋が足りない、と言っていた瑠璃子が、家の外での恋(春夫との情事)を始めてからは「同じ場所に帰る」ことこそが大事だと言う。
どこで恋をしていても、同じところに帰ってくればいいのだと。でもやっぱり聡には言葉の意味が分からない。
聡よ…全然わかっていないじゃないの。
時を同じくして聡も大学時代の後輩から猛アプローチを受けて不倫してしまう。
帰る場所
「夜になるとみんなうちに帰るでしょ。妙だなぁと思うの」
この台詞。ぞっとしました。
もう終わりだ! 聡、もう終わりだよ!
ところが予想に反して瑠璃子は、案外あっさりと春夫と別れてしまいます。
なぜなら、自分の守りたいものが聡との生活だったということがわかったから。
甘い小さな嘘たち
人は守りたいものに嘘をつくの。あるいは守ろうとするものに。
瑠璃子が不倫相手の春夫に言った台詞。
作品のタイトルの回収です。
瑠璃子と聡は、お互いの不倫を続けるためにお互いに嘘をつき続けていた。
でも瑠璃子は春夫に嘘はつけなかった。愛している、離れたくない、心からの言葉を春夫にささげてきた。
でも、守りたいのは聡との生活だったと気づいた以上、春夫とは一緒にいられなかった。
一方の聡は、しほ(大学時代の後輩)と別れた描写はありませんでしたね…
それどころか、しほと付き合ってからのほうが瑠璃子とうまくいっていると思っている。本当は瑠璃子が聡への恋心をなくしたから、執着しなくなってうまくいっているように見えただけなんだけどね。
最後に
こうして台詞に注目して読んでみると、瑠璃子は結構自分の気持ちを聡に伝えているんですよね。
きちんと耳を傾ければ、瑠璃子がよそで恋をしていることなんてすぐにわかると思う。でも、聡にはわからないんです。全然わかろうともしていない。
同じ家の中で暮らしていても、見ようとしなければ見えないものってある。
なんだか身につまされる話でしたね…(笑)
中谷美紀と大森南朋主演で実写映画化もされています。
原作の空気感をそのまま映像にしたような、美しい(ダブル不倫ものとは思えない(笑))雰囲気の作品です。
それでは、また。
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